緑に囲まれたウッドデッキを上がって玄関扉を開けると、にぎやかな笑い声が聞こえてきました。市川三郷町黒沢の渡辺与志子さん(75歳)の家。この日は、刺し子の刺しゅうを渡辺さんに教えてもらうため、町内の友人ら3人が集まりました。 渡辺さんが刺し子を始めたのは40歳のころ。教室に通いコースターなどを作っていましたが、「自分でも図案を考えるようになってね」。デザインを学んだことはありませんでしたが、伝統の模様をアレンジして、新しい模様を次々に生み出しました。巾着、鞄、ポーチなど、どれも手の込んだ作品です。 そこでとどまらなかったのが渡辺さん。「刺し子のコースターに、自分で作った茶碗を載せたくなって陶芸を始め、次には素敵な料理をその皿に載せたくなって…。やりたいことが増えちゃったんです」。趣味は陶芸、創作料理、押し花などへと広がりました。そのどれも渡辺さん独自のセンスが光ります。以前勤めた地元の和紙メーカーでは、和紙小物のデザインも担当。料理の腕は弁当の注文を受けるほどです。 刺し子の手を休めて昼食の時間。自家製の野菜や米で作ったおいしい料理を、手作りの皿に盛りつけます。「みんなが喜ぶ顔がうれしくてね」。友人たちは「太陽みたいに周りを明るくしてくれる人」と評します。戦後の貧しさ、家族の介護などの苦労もありましたが、「いい人たちに巡り会えたのが宝物だね」。温かく包み込むような笑顔を見せてくれました。
|