4月最後の土曜日、上野の新戸部政幸さん(71歳)が外出から戻ると、自宅のガレージの隅に何か落ちていました。スズメのヒナでした。「またか」。驚きました。昨年も同じようにヒナが巣から落ちていたのを助けたのです。毛もなく、目も開いていない弱々しい小さな命。新戸部さんは、今年もヒナを育てることにしました。 今回は、すっかりコツが分かっていました。倉庫として使っている離れに、段ボールで作った鳥カゴを置きました。初めはミルク状のエサを2時間おきに。次第に練り餌にして、1カ月ほどで小さな虫も与えます。湯たんぽ代わりに布を巻いたお湯のボトルをおいたり、フンをきれいにしたり。「人間の赤ちゃんを育てるように手がかかりますよ」 「チチチッ」。新戸部さんが口を鳴らすと、ヒナも答えるかのように「チュチュッ」と鳴きながら羽を震わせて飛んできて、肩や頭に乗って甘えます。手のひらに包むと、気持ちよさそうに背中をなでられていました。 6月上旬、スズメは羽も生えそろい、倉庫内を自由に飛び回るようになりました。「そろそろだな」。新戸部さんは窓を開けました。最初は内と外を行き来していましたが、3日目には戻らなくなりました。「チチッと呼びかけると、答えるスズメはいるんですよ」。でも近寄ってはきません。「寂しいけれど、これが自然の姿。もしかしたら去年育てた子が、お礼に自分の子を預けてくれたのかも…」。新戸部さんは毎日、電線のスズメを見守っています。
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